【独占インタビュー】本番直前!《挾間美帆》本人が語る、シエナの魅力とコンサートの聴きどころ etc.

2026年2月7日の定期演奏会を目前に、全て自身の作曲・編曲作品で綴る“オール挾間美帆プログラム”を自身で指揮する挾間美帆さんにオンラインで取材した、音楽ライター小室敬幸さんのインタビュー記事が届きました!
アメリカとヨーロッパを行き来しながら世界の檜舞台で活躍するジャズ作曲家の挾間美帆。現在、グラミー賞に2度目のノミネートをしていることからも分かるように、ジャズの世界におけるフロントランナーのひとりだ。彼女は2017年からシエナ・ウインド・オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンス(座付き作曲家)を務め、これまで様々な編曲・作曲を提供してきた。
その成果の集大成となるのが2026年2月7日(土)に開催されるシエナ・ウインド・オーケストラ 第58回定期演奏会だ。シエナ×コンポーザー・イン・レジデンス《挾間美帆》スペシャル!と題され、挾間自身の指揮で彼女の多彩な作品が演奏される。指揮者としての共演は2018年5月以来、なんと7年半振り! シエナのメンバーにとっても待望だというコンサートの聴きどころを、挾間美帆本人にうかがった。
挾間美帆にとっての吹奏楽とシエナ
――これまで様々な吹奏楽曲を作曲していらっしゃいますが、オーケストラやビッグバンドのための作曲とはやっぱり違うのでしょうか?
挾間:私の場合はリズムセクションとしてピアノ、ベース、ドラムスがいるかどうかで、そもそもの思考回路が変わってくるんです。リズムセクションがいれば、即興的な伴奏をしているなかで音楽が進んでいくのが基本的なパターンになりますね。でもリズムセクションに頼れないとなると、それ以外の楽器でどういうグルーヴを作ろうか考えたり、クラシック的な作り方に寄ったりすることが多くなります。
――なるほど。シンフォニックジャズ&ポップスコンテストの課題曲である《Catch That Sly Rabbit(あのずる賢いウサギを捕まえろ!)》や、今回演奏される《“Maiden Voyage” Suite》のようなリズムセクションがいる曲とそれ以外では、挾間さんにとっては吹奏楽といっても、全然異なる発想で楽譜を書いているんですね。
挾間:《Catch That Sly Rabbit》はビッグバンドの曲が吹奏楽版になったみたいな、そういうアプローチで書きました。でもシエナのために作曲した《The Tigress》《pray》、そして今回初演される新作にリズムセクションはいないので、発想は真逆。オーケストラに近いですね。ビッグバンドに近いところがあるとすれば、奏者に当て書きも出来るところかな? ビッグバンドって最大でも25人ぐらいしかいないので、1人1人のキャラクターにあわせて割と当て書きをするんですよ。オーケストラだと人数が増えてしまうので、なかなか難しいんですけど、シエナはビッグバンドとオーケストラの間ぐらいなんです! コンポーザー・イン・レジデンス(座付き作曲家)を何年もやらせていただけているお陰で、メンバーの皆さんがどんな演奏をするのかもみえてきて、その個性が何となく出せるようになってきたかなって思いますね。
――最初はシエナの首席指揮者である佐渡裕さんが、当時まだ学生だった挾間さんとの縁をとりもち、『題名のない音楽会』などでシエナの編曲を担うようになったんですよね。そして2017年にコンポーザー・イン・レジデンスに就任し、現在に至ります。
挾間:今もよく覚えているんですけど「コンポーザー・イン・レジデンスになってください」って言っていただいたとき、すごく嬉しかったのと同時に、とっても冒険をする吹奏楽団だなと思ったんですよ。編曲を除けば、吹奏楽の作品は片手で数えられるぐらいしか書いていなかったし、吹奏楽の世界で名前が知られているわけでもありませんでしたから(笑)。でもコンポーザー・イン・レジデンスとしてご一緒させていただくようになって、逆に吹奏楽らしくなくてもいい!というつもりで私に声をかけてくださったのかなと考えるようになりました。吹奏楽はこう書けばいいんでしょ?っていう予定調和になる必要はないと考えてくれているシエナの柔軟なスタンスに応えていきたいですね。自分のなかでは、いつかシエナの打楽器奏者である東 佳樹さんをフィーチャーしてヴィブラフォンと吹奏楽のための協奏曲を書けたらいいなと思っています。東さんとは、NHKの収録とか、別の現場でも結構会うんですよ。
――シエナのメンバーといえば、挾間さん自身のグループであるm_unitのホルン奏者を務めているのがシエナの林 育宏さんというのも重要ですね!
挾間:クラシック音楽はオーケストラや吹奏楽のような大編成であっても、1人1人の奏者がヨコのラインでとっていくというのが特性だと思うんです。でもそれだとジャズのようなリズムの音楽をやる時に、拍感もリズム感も全くみえてこない。そのことを理解して、早く掴んでくれるホルン奏者は……と考えた時に、林さんに白羽の矢が立ったんです。いつも頼りにしています。

須川展也とのコラボレーション作
――今回のプログラムのうち、2014年の《The Age of Discovery(大航海時代)》とサクソフォン・ソナタ第1番《秘色(ひそく)の王国》は日本を代表するサクソフォン奏者 須川展也さんが初演した作品です。挾間さんにとって須川さんは、どのような存在ですか?
挾間:サクソフォンというとジャズのイメージも強いですが、私がビッグバンドのサクソフォンをちゃんと知るよりもずっと前の高校生ぐらいのときに、須川さんの演奏する吉松隆さん作曲の《ファジー・バード・ソナタ》と出会って、こんな作品があるんだ、かっこいいなって非常に感銘を受けたんです。
――《ファジー・バード・ソナタ》は第1楽章のあたまから変拍子で、吉松さんお得意のプログレッシヴ・ロック風にはじまる楽曲ですね。
挾間:私は、ジャズではないサクソフォンの音色の基礎が、須川さんの音で最初に形成されたと思うんですよ。当時はそれ以外だと、ヤマハのエレクトーンのコンクールで演奏するためにジャズを聴いたりするぐらいだったので。特にアルト・サクソフォンという音色の概念とか、そのブランド感みたいなものを形成してくれたご本人なんです。だから、そんな方からこうやって一緒にやりましょうって言っていただけるようになるなんて、当時は想像してなかったですね。
――作曲家の吉松隆さんも、高校生の挾間さんに多大な影響を与えた存在でしたよね。
挾間:当時は吉松さんのカムイチカプ交響曲(交響曲第1番)の第2楽章、命でした(笑)。もちろん今も大好きです。吉松さんを羨ましく思うのは、吉松隆といえばああいう曲だって説明しなくても分かるじゃないですか。自分にとって日本でそう思える作曲家は吉松さんと坂本龍一さんだった気がしていて。その2人がロールモデルになった感じがあります。
――須川さんのお話に戻りまして、彼が常任指揮者を務めていたアマチュアのバンドであるヤマハ吹奏楽団のために作曲されたのが《The Age of Discovery(大航海時代)》でした。
挾間:この曲はコンサートオープナー的な曲が欲しいと依頼されたんですよ。《The Age of Discovery》というタイトルにしたのはスペインの大航海時代をイメージしているからなんですけど。でも海の中を進む感じを表現しようって思ったときに、栗山和樹先生が作った大河ドラマ『北条時宗』のテーマ曲が頭に浮かんだんですね。オープニングのグラフィックでも最初に海の中に入ったり、その後も船で進んでいく感じで。そのグルーヴをどうやってオーケストラで作っているのか、ずっとずっと不思議なんです。結局、先生にも聞かなかったかな?だからこの曲では海の中を進む感じを自分なりの演出で作っています。曲調は全然違うんですけどね。
――サクソフォン・ソナタの方は、オリジナルこそサクソフォンとピアノという編成ですが、ピアノパートは今回の吹奏楽版に加え、管弦楽版もつくられていました。
挾間:だから原曲よりも、吹奏楽やオーケストラで演奏していただいた方がむしろ、自分が最初から考えていたサウンドに近いんです。先ほどお話しした《ファジー・バード・ソナタ》が収録されている須川さんのアルバム『メイド・イン・ジャパン』(1998)を聴き倒していたので、自分がそこに名を連ねられるとしたら何が書けるんだろう?って、すっごく考えましたね。とにかく須川さんのサクソフォンのために作曲するというのを物凄く意識しながら書きました。
……でも実は、気合を入れすぎたのか、書きすぎちゃって(笑)。どう少なく見積もっても25分ぐらいあったんですよ。楽譜に書いているのはピアノ伴奏なんだけど、自分の頭のなかではオーケストラのサウンドで鳴っているので無意識のうちにコンチェルト(協奏曲)の規模感になっちゃってたんですね……。須川さんってリクエストがあれば書いた後でも素直に伝えてくださる方なので「あのね、ソナタなんだけど……」と言われて、そういえばそうだった!と気付きました(笑)。
――『メイド・イン・ジャパン』に収録されている曲は、どれも15分以内でしたもんね(笑)。それで結局、カットして17分ぐらいに落ち着いたと。副題《秘色(ひそく)の王国》には、どんな意味が込められているんですか?
挾間:グレーと緑を混ぜたような……でも暗い深緑ではないんですよ。緑と瑠璃色とグレーを混ぜたような、陶器になりそうな色といいますか。霧がかった暗さみたいなものと、陶器のような美しさがある二面性を持った色を作曲中にイメージしていて、それを音で表現しようとしたんです。第1楽章は霧がかった暗さ、第2楽章はもっと温かみがあって、透き通った美しさにフォーカスを当てています。第3楽章はスパークルなイメージで、その色自体というよりも陶器になったらどんな光を放つんだろうって想像しながら作りました。
――今回は須川さんではなく、挾間さんと同じお名前をもつ住谷美帆さんがソリストを務めます。
挾間:須川さんから、挾間さんの作品を演奏してもらいたい僕の弟子がいるんだけど、と最初に紹介されたのを覚えています。このソナタは初めてなんですが、他の曲は色々演奏してくださっているそうです。お仕事でご一緒するのは今回が初めてなので、私自身も非常に楽しみにしています。全く同じ漢字の人と一緒に演奏するのは初めてかもしれない(笑)。
尊敬する音楽家たち
――今回の公演でメインプログラムとなるのが“Maiden Voyage” Suite(《処女航海》組曲)です。ハービー・ハンコックの言わずとしれた名盤をアレンジした楽曲ですけど、2015年から様々な編成で演奏されていますね。どれも構成は一緒なんですか?
挾間:全く一緒ですね。2015年が“Maiden Voyage”のレコードが発表されて50年という節目だったんですよ。そもそもハンコックがジャズピアニストの中では3本の指に入るぐらい好きで。“Maiden Voyage”も演奏がただただ素晴らしいの一言に尽きますし、通して全部聴くとひとつの物語になってるレコードって、ジャズとしてはその当時結構画期的だったと思うんです。だからアレンジでもそこにフォーカスしました。各曲のタイトルが全部繋がるように出来ているので、音楽的にも全部繋がるようにしたいなって考えたんです。あとはやっぱり、自分は動きと音楽が結びつくのが好きなんですよ。
――バレエがお好きなことや、さっきもお話ししていた大河ドラマのオープニングがお好きだったりすることとも繋がっていますよね。
挾間:面白いのは、私はただ自然に書いているつもりなんですが、聴いた感想として情景が視えてきたって言われることがすごく多くて。それで“Maiden Voyage” Suiteでは、意識的に情景が見えるような音楽になるよう心がけてみました。
――遂にシエナのための完全新作として書かれた2019年の《The Tigress(ザ・タイグレス)》は、ルネサンス時代の女傑カテリーナ・スフォルツァ(1463〜1509)を題材にした作品ですが、そのサウンドからはこれまた挾間さんがお好きで、管弦楽法(オーケストレーション)に多大な影響を与えたオットリーノ・レスピーギへの愛が伝わってきます。
挾間:作曲中は意識していなかったんですけど、やっぱり題材がイタリアだったからなのか自然にでてきちゃったんでしょうか(笑)。この曲はコンクールで演奏できるような曲を初演するコンサートの一環だったので、シエナの明るく華やかな側面にあう作品になったかなと思っています。

作曲家の頭のなか
――先ほどのスペインの大航海時代なども含めて、歴史に題材をとった作品が多いですよね。
挾間:詳しいわけじゃないんですけど、歴史がすごく好きなんです。この前、別のコンサートで再演した《CHIMERA》という曲もギリシャ神話が由来ですし、神話も含めた歴史にインスピレーションを得ることが確かに多いです。あとシエナのコンポーザー・イン・レジデンスとして書かせていただいている新作には、幹となる大きなコンセプトが欲しいなと思って、女性をテーマにした曲を書き足していこうと漠然と考えています。《pray》のように現代を扱ったものもありますけど、あとは今回の新作も含めて今のところは歴史上の人物が題材ですね。多様性が大事にされる現代の中で生きているひとりの人間として、歴史上でその人がどういう風に捉えられていたかを音楽で描くっていうのは非常に面白いんです。
――シエナのための2作目となった2024年2月初演の《pray》は、イスラエルの攻撃におびえるガザに住む女性が「ただ祈ってください Just pray for us.」とジャーナリストに語ったことがタイトルの由来だとうかがいました。
挾間:この曲のコンセプトを考えていた時期が、ちょうどガザが侵攻されていく頃だったんです。もちろんウクライナで戦争がはじまった時も物凄くショックを受けましたが、ガザの場合は戦っていない一般市民が多く巻き込まれてしまっている。
――あれはジェノサイド(虐殺)ですよね……。
挾間:それをニュースで見ていて、本当にいたたまれないのだけれど、だからといって自分に何ができるわけでもなく……。仕事柄、アメリカとヨーロッパを飛行機でよく行き来するんですが、ウクライナやガザの結構近くを通るわけですよ。決して遠くないのに、なんでこんなにも違うんだろうって……。それが非常に重くのしかかって、ゆっくりとした曲を書きたいという気持ちがずっとあって。委嘱作品の場合、通常はアップテンポで派手な曲を書いてくださいとお願いされることが多いので、こういう立場だからこそ普段できないチャレンジをさせてもらえるのは有り難いです。
――すごく重たい内容の曲ではあるんですが、でも挾間さんらしいハーモニーによる色彩とオーケストレーションによる色彩が見事にかみ合った、魅力的な音楽だとも思いました。
挾間:ありがとうございます。シエナというと派手で明るい音というイメージが強いかもしれませんが、敢えてそれを抑えて悲壮感みたいなものも出せるんじゃないかと。そういう意味ではシエナにとっても普段とは異なるキャラクターをアピールできる機会になるかなと思いながら書いていました。
――なるほど。この曲はずっと暗いわけではなくて、曲のなかばで光が差し込みます。その劇的なコントラストに、明るい音色をもつシエナらしさが活きているんですね!では今度の最新作はどのような内容ですか?
挾間:日本の歴史上の女性をテーマにしたくて、飛鳥時代の額田王(ぬかたのおおきみ)という天皇に仕えた皇族であり、歌人でもあった女性をテーマにしました。男尊女卑がすごく強かった時代に一体どういう立場で女性が何をしていたかって考えながら曲を書いています。
――今回のプログラムのうち、《The Age of Discovery(大航海時代)》と《“Maiden Voyage” Suite》は2018年にラ・フォル・ジュルネTOKYOで挾間さん自身がシエナを指揮していますが、それ以外は?
挾間:初めてです。正直にいうと、例えば《The Tigress》は原田慶太楼さんが初演で指揮してくださるから難しく書いちゃってもいいやと思ってたわけですよ。だから、今になってとても困っています(笑)! とはいえ、困ったと言いながらニヤニヤもしていて。というのも色んな経験がレッスンになったお陰で、この5年ぐらいで指揮が上手になったねって色んな人に言われるようになったんですよ(笑)。前回シエナと共演させていただいた7年半前より少しはマシになっていると、平子さん(※シエナのチーフマネージャー)メンバーのみんなに言っておいてください(笑)。
ソリスト住谷美帆さんからのメッセージ動画
