20周年記念コンサート ライターズレポート

シエナの20周年を記念して開催された記念コンサートについて、音楽ライターである北村洋介さんが来場。現地で感じた感動やシエナの魅力について思いっきり語っていただきました。

相変わらず無茶するな!

シエナ・ウインド・オーケストラが結成20周年コンサートを東京・横浜で2日連続で行なうという話を聞いて、吹奏楽ファンの一人として最初に思ったのは「2日連続で違うプログラムで演奏会なんて、相変わらず無茶するな?」というものだった。シエナの演奏会には何度か足を運んでいるので、このバンドのポテンシャルの高さは理解しているとはいえ、1日目はインターネットの人気投票で上位に入った曲を演奏、2日目はオルフの「カルミナ・ブラーナ」全曲を取り上げるというから、スタミナがもつのかちょっと不安に思うのは私だけではないだろう。でもまあ記念コンサートだし、佐渡さんやメンバーの意気込みも違っているだろうから何とかなるかも。どんな感じになるか見てやろう…などという野次馬根性で、2日間とも出かけることにした。

うだうだと書いているとコンサートリポートにたどりつけない!佐渡さんのトークで始まった1回目コンサートは7割くらいの入り。服部隆之さんの作曲によるシエナ創立20周年記念作品が2曲披露され、そのあとシエナ作曲コンクール優勝作品の三澤慶さんのマーチが演奏された。3曲ともいい曲だけど、三澤さんのマーチ、どこかジョン・ウィリアムズのある曲に似たフレーズが出てきて思わずニンマリ。佐渡さんの爆笑トークもあって、会場の雰囲気もだんだんほぐれてきた感じがした。

続いてお待ちかねの「おもちゃ箱スペシャル」。佐渡=シエナを聴いたことのある人ならその楽しさはご存じのはず。今回はその持ちネタから爆笑ものを惜しげもなく(?)繰り出してきたが、「ど演歌えきすぷれす」では少し調子の悪い人がいたし、「マーチメドレー」でのマイクパフォーマンスのものまねが今ひとつ似ていなかったり…。ま、すべっても気にしないで次のネタで盛り返すあたりはお笑い芸人さながら。「マンボNo.5」の衣装をつけるときに「タキシードの似合う男になりたい!」と叫ぶ佐渡さん…オイオイ、自分から喜んで被り物をしているくせに(苦笑)。

プログラムに載っていた佐渡さんとメンバーの座談会を読むと、「おもちゃ箱」は「プロがやる学園祭」を目指したとあるが、改めて見ていると今風ではなく、やや懐かしめのネタが多い気がする。佐渡さんも今年で50歳だし、シエナも結成20年だから、今の中高生が喜ぶというよりは、少し大人の方が楽しめるのか?でも、老若男女が全体で盛り上がれるのはこのあたりのネタなのかもしれない。余談だけど、すべりまくってお蔵入りしたネタもひとつくらい見てみたかった(笑)。

ちょっとやりすぎ?!でもそれもシエナらしい

おもちゃ箱スペシャル」で観客も踊ったり手拍子したりして盛り上がったあと、プログラム最後は「アフリカン・シンフォニー」。これぞシエナという豪快な演奏だが、金管が鳴らし過ぎて木管のメロディが聴こえない…。佐渡さんが振らないシエナでこういうバランスの悪い演奏を耳にしたことがあるが、ちょっとやりすぎかな。アンコールの「ディスコ・キッド」も同様だったが、近くにいた女子高生が「得した?!」と喜んでいたから、まあいいか。

 

1回目コンサートが6時半頃に終わり、いったん会場を出てクイーンズスクエアを散策。2回目コンサートを続けて聴く人も多いみたいで、近くのファストフードやコンビニに行列ができていた。入れ替えの都合があるのかもしれないけど、ビデオとか写真展示をしているあたりまでは自由に入れるようにしておいた方がよかったのかも。

オジサンの繰り言はさておき、7時半からの2回目コンサートは1回目より客入りも上々(8割以上埋まっていた)。おなじみ《キャンディード》序曲でスタート。今度はバランスよくまとまっており、佐渡さんのドライブも好調で楽しめた。

2回目はゲストを招いての「ようこそシエナ・カフェへ」。佐渡さんが「このテーブルと椅子でカフェ?」とかまして笑いを取って、最初のゲストである保科洋先生をステージに呼び寄せる。佐渡さんとのトークのあとで「風紋」を指揮してくれたが、これがすばらしかった。自在なリズムの揺れや息の長いフレージングなど、課題曲のなかでも人気のこの曲の、決定版になりそうな名演だったかもしれない。

 

次は淀工の丸谷明夫先生。佐渡さんとのトークは同じ関西人同士だけあって楽しかったが、丸谷先生の指揮で演奏した「高度な技術への指標」でアンサンブルに乱れが散見されたのは残念だった。トークの間、シエナのメンバーはステージに座ったままだったから、切り替えができなかったのか?

最後のゲストはドラムの則竹裕之さん。トークの前にドラムソロを演奏(絶品!)したのがよかったのか、トークも全開。バーンスタイン「プレリュード、フーガとリフス」で最初に共演したときに譜面を渡されて、あまりの難しさに絶句したとか、「ロッキーのテーマ」で毎回違うソロを叩くのに苦労しているなど、ジャズプレイヤーならではの話で盛り上がった。

その「ロッキーのテーマ」でカフェは終了。佐渡さんの好リードもあってトークはとても面白かったが、ちょっと長かったかも。ここまで4曲しか演奏していないのに、1時間以上経っているし(苦笑)。コンサートに来たのかトークを聞きに来たのか…。これもシエナらしさ、佐渡さんらしさなのか。

プログラム最後は「アルメニアンダンス・パート?」。熱演だった。佐渡さんにとってもシエナにとっても大事にしている曲であり、いわゆる「参考演奏」ではない「鑑賞するに堪える演奏」を目指していることが、ひしひしと伝わってきた。

20周年を記念するにふさわしい曲

 

筆者の主観だが、佐渡さんは「不器用」な人のような気がする。それは、ひとつの曲に対してのイメージはしっかり持っているのだが、最初より2回、3回と演奏回数を重ねることで、曲を熟成させて音楽を深めていくという意味での「不器用さ」があるということ。それは共演するオーケストラにもいえることなので、必然的に関係が長ければ長いほど演奏の熟成度が高くなる。だから日本で佐渡さんの音楽を最良の形で提示できるのはシエナなのだ。そして、佐渡=シエナの初共演で取り上げた「アルメニアン」こそが、20周年を記念するにふさわしい曲であり、この日の名演なのだろう。

アンコールは「エルザの大聖堂への行列」(これも集中力の高い名演!)。そしてお約束の「星条旗よ永遠なれ」ではものすごい数の参加者がステージに上った。「星条旗」を見るのはもう何度目になるだろう。佐渡さんの指揮で演奏したい、シエナと一緒にステージに立ちたいという人たちの熱気もすごいし、演奏もかなりまとまっている(みんな、いつ練習しているんだろう?)が、トリオの最後をあんなに早くするのは、どうなのだろうか?マーチって、急に速くしたら走らなければならなくなるんだけど…マーチ好きのオジサンのつぶやきはさておき、終わったらもう9時を過ぎていた。明日は東京公演だ。早く帰って寝るとするか。

今日は「風紋」「アルメニアン」「エルザ」の名演で満足したな。あ、人気投票で上位の曲を演奏するという話はどうなったんだろう?後日ホームページを見たら、ベスト10に入っていた曲のうち8曲が演奏されていた。おや、5位に入っているスミスの「フェスバリ」と10位の「華麗なる舞曲」を演奏していない!!次の機会に演奏してくれないと怒るぞ?(笑)。

さて、翌日の東京公演は早くからチケットが完売。「カルミナ・ブラーナ」全曲、しかも独唱・合唱付きでの本格的な演奏。確か数年前に東京佼成ウインドオーケストラがやったはずだけど、最近コンクールなどで抜粋版の演奏(合唱なしだが)が話題になっているので、チケットが売れたのはそのせいか?(業界人的な発想だ…)

次回はわくわくさせるコーラスを

サントリーホールに着いてみると、土曜の午後にもかかわらず制服姿の学生はあまりいず、カップルや親子連れなどが目立つ。シエナのお客さんたちでちょっと興味深いのは、他の吹奏楽団やクラシックのコンサートで見かけないような人たちが多いこと。テレビなどで活躍する佐渡さんのファンやシエナのコンサートを楽しみにしている人が多い感じだ。このシエナ独特のファン層=吹奏楽ファンとはなっていない気がするが、これは東京のコンサートだからなのかもしれない(チケット代も高いし)。地方の演奏会なら中高生を中心とした吹奏楽部員たちが押し寄せているに違いない。

演奏について。「カルミナ」は原曲がパーカッシブでブラッシーなので、吹奏楽版でもあまり違和感はない。佐渡さんの指揮(日本でこの曲を振るのはおそらく初めてのはず)、シエナの演奏(客演のピアニスト2名に拍手!)、独唱陣、いずれもよかったけれど、残念だったのは合唱とナレーション。晋友会合唱団は同曲で小澤征爾=ベルリン・フィルと共演したこともあるくらいなので、期待していたのだが、精度に欠けて粗っぽさが目立っていた。こういう曲だから許されるところ(フォルティシモな部分とか)もあるけれど、静かな曲でユニゾンやハーモニーが乱れると興が削がれる。次回はわくわくさせるコーラスをぜひ。

それと、曲間や曲中で歌詞の中身をナレーションで説明するというアイディアは理解できるけれども、かなり大げさに朗読されたので、曲を知っている身にはちょっと…。先に書いた「シエナの客」へ向けての佐渡さんなりのアイディアなのかもしれないが、これも次に演奏するチャンスがあったら再考をうながしたいところだ。

とはいえ、冒頭の曲が最後に戻ってきて「運命の輪廻」を感じながら大団円を迎えるこの大作を聴く喜びは格別のもの。この曲のあとにアンコールはないだろうと思っていたら、昨日に続いて「エルザ」を演奏。昨日と同じくらいの完成度を期待したけれど、さすがに「カルミナ」の後だと木管がへばり気味。あと、CDで合唱付きバージョンを収録しているので合唱付きで演奏すると思ったら、バンドだけの演奏でがっかり。

これで終わりと思いきや、「もう1曲やります!!」という佐渡さんの声で始まったのが「アフリカン・シンフォニー」!(しかも今度は合唱付きバージョン!!)客席は大喜びだったが、「カルミナ」の印象が吹っ飛んでしまったように思ったのは私だけだろうか?これも「シエナらしさ」なのだろうか?

プログラムに「シエナは吹奏楽のさまざまな可能性を追求してきた」うんぬんという言葉があって、その集大成という位置づけで「カルミナ」を演奏すると考えていただけに、最後の「アフリカン・シンフォニー」で「チャンチャン」と終わることにはちょっと疑問を覚えた。佐渡さんは「1万人の第九」で「第九」を演奏したあとにアンコールをするのだろうか?聴いたことがないので分からないが、やっているとすればこれも「あり」なのだろう。「お客さんに喜んでもらう」のは大事なことなのだから…。

これからはより広がりをもった客層へのアピールを

佐渡さんがシエナを振って13年。吹奏楽というジャンルの閉鎖性(残念ながら外から見るとそう捉えざるを得ない)を、少しでも打破しようと奮闘してきたし、20周年という節目で2日間にわたって多彩な面を披露してくれたことには敬意を表したい。「佐渡=シエナ」はひとつのブランドとして確実なお客さんをつかんできたが、もしかするとそのお客さんは「佐渡=シエナ」以外のシエナや他の吹奏楽団(プロアマ問わず)、クラシックの演奏会に足を運んでくれていないのではないか?それだけ「佐渡=シエナ」には独特のテイストがある。これを「すべてよし」と受け入れるか、拒絶反応を起こすのか。苦労してブランドを作り上げてきたからこそ、これからはより広がりをもった客層へのアピールに期待したい。

そして他の指揮者でも佐渡さんと共演するときのクオリティを維持できるのか(プロならできて当然だが)。シエナは最近文京区と提携し、文京シビックホールを根城にして活動をしていくという。活動拠点ができて安定したこの時期に、3年後、5年後を見据えた演奏のクオリティアップを目指してほしい。シエナがやること、シエナの演奏がプロだけでなく学校現場や市民バンドの目標になっていってほしいからだ(上から目線すぎるか)。

7日の横浜公演で佐渡さんは「中高と吹奏楽で仲間と音楽を作ってきたのが楽しかった、これが僕の音楽の原点。5月にベルリン・フィルを振るけど、吹奏楽をやってきた指揮者がベルリン・フィルを振るのは史上初だと思う。僕は日本の吹奏楽はとてもすばらしいと思っているから、日本の吹奏楽のすばらしさを証明するためにベルリン・フィルを振りに行きます」と話してくれた。吹奏楽ファンにとってとてもうれしい言葉だからこそ、これからもその想いを全国の吹奏楽愛好者に示し続けてほしいと感じながら、サントリーホールを後にした。

筆者紹介

北村洋介(きたむら ようすけ)
出版社勤務の50歳のオジサン。中(テューバ)・高(バスクラ)と吹奏楽部だったが、大学はオケ(ヴィオラ)に転ぶ。クラシックオタクで趣味はコンサート通いと音源・スコア収集。吹奏楽ファンで普門館にも聴きにいったことあり。全国大会で女性がテューバを吹いているのを見て「何で男が吹かないんだ?」と不思議に思っていたが、昨年フィラデルフィア管弦楽団来日公演でテューバが女性なのを見て「時代がそうなったんだな」と考え直したところ。好きな作曲家はラヴェル、ブルックナー、モーツァルト、ショスタコーヴィチ(順不同)