ブラスの祭典・・・レコーディングレポート レポート:郡 恭一郎
(07/19/2000 バンドパワー 掲載記事)

 
〜メンバー書下ろしのスーパー・レポート〜

佐渡 裕&シエナ・ウインド・オーケストラ
「ブラスの祭典」レコーディング風景

全身全霊を込めて、良い演奏をするだけだ!!
 
レポート : 郡 恭一郎(シエナ・ウインド・オーケストラ楽員代表、トロンボーン奏者)

「はいっっつ、オッケーです。御疲れ様でしたー!!」
レコーディング風景-1

 嵐のような、足音…。その瞬間、満足感、安堵感、達成感…全員の顔に例外なく生まれていた。まさに激動の3日間であった。ついにやった! ついにやったのだ!! ついに佐渡&シエナの第一弾のCDが生まれたのだ。
 いやーー終わった。やり遂げた。さあーて、これから宴会だ、打ち上げだ! とことん飲むぞ〜!! もう、その打ち上げの明るく楽しいこと、本当にこのうえない。佐渡氏もコンマスの新井氏もおおはしゃぎ。今日の酒は本当に旨い!

 

 ■待ちに待った「レコーディング」にGOサイン!
レコーディング風景-2
 思い起こせば今から約3年前、このコンビでのコンサートが始まった。まもなく、シエナの人気も徐々に高まり出して、演奏会はどこも満席。必然的にCDを録音してほしいと熱望する声が、あちこちから聞かれるようになっていた。
 我々もプロである。既に14枚のCDや数多くのビデオも発売していて、定評は頂いていた。ただ、録音に関しては暫くブランクもあり、「やりたい! 早く作りたい!」という半ば焦りにも似た気持ちが、メンバーの全員から出ているのは痛いほどわかっていた。
 佐渡氏も超多忙である。なかなかスケジュールが噛み合わない。メンバーも事あるごとに一喜一憂している。しかし焦って作るより、ここは"泣くまで待とう"の心境である…。良い機会をじっと待っていた。そしてついに実現の日がやってきた。
 本当に待たされた…。それだけに皆から発散するエネルギーも本当に凄いものがあった。
 練りに練った超大作。大河ドラマのようだった。リハーサルや一般公演も含めると10日に及ぶ長旅だった。天国の我が僚友は聴いているだろうか? この天上の響を…。
 悔しくも、このレコーディング前日に、我がシエナのかつての愛すべき仲間を亡くしている。信じられない事だった。彼女を送るためにバッハを演奏。涙が溢れて、前がよく見えない。皆泣いている。泣きながらも、必死で演奏している。ありったけの想いを込めて我々は奏でた。その響きは、だが限りなく純粋で透明だった。
 いつまでも泣いてばかりいられない。我々は彼女の為にも、素晴らしい作品を作らなければいけないのだ! 皆は気持ちを切り替え、取り組みはじめた。徐々に精気みなぎる音が出だした。そして、その夜、自分は彼女と悲しみの対面をした。ぶつかった事もあった。励まされた事もあった。佐渡氏との初の定期の時には、飲み会の為の金一封を持って、いつもながら、えらく賑やかに登場してくれた。未だに信じられない。神様は何とひどい事をするのだ…。
 そう言えば、もう4年近く前になるか…新生シエナが誕生したのは…。更なる飛躍と、一大転機を誓い我々は独立したのだった。この一大転機の選択になかなか決心のつかない我々を強力に後押ししたのも彼女だった。だが、独立当初は色々と暗中模索で、残念ながら彼女は暫くしてシエナを去っていった。しかし、いつも我々の事を暖かく見守ってくれていた。その彼女がもういない。だから、だから絶対に良い物を作りたかった。そして、出来たよ!、最高の物が。聴いてくれたかい? 何か言ってよ…、いつもながらの辛口なコメントで…。
 独立に際しては、あのBPにも大きく取り上げて頂き、不安な気持ちに随分と勇気を与えられた。また、その後も事あるごとに応援を頂き、とても嬉しかった。だからBP無期休刊の知らせは哀しかった。小太郎氏は今何処で何をしているのだろう? いつも気になっていた。是非とも恩返しをせねば…。いつも心の中にあった。そして、小太郎氏は健在であった(またあの殿様のようなモヒカンを見たい!)。うれしいことにウェブ上での大復活。さすがBP、今や大変な盛況のようだ。

 ■佐渡氏との出会いが「シエナ」を変えた!
 シエナ自体は創立からは今年でいよいよ結成10周年を迎えた。ミレニアム・イヤーと重なり、嬉しい事だ。今年は既に色々な企画が目白押しで、いずれも大成功で来ている。
 さて、前述の通り、我々既に14枚程のCDを出しており、それなりの評価も頂いていた。今聴き直しても、正直悪くないものばかりだと自負している。色々な苦楽の思い出が走馬燈のように駆け巡り、感慨深い愛すべき作品達だ。しかし、やはり今回の作品は明らかに別物である。世界中から超一流の器材が集められる。録音会場はすみだトリフォニーホール。丸々3日間押さえた。贅沢な話である。スタッフもわざわざフランスからエラートのバリバリの叩き上げのプロデューサーのジャン・シャトレ氏がビッチリと張り付いてくれる。もはや逆風は何もない! 全身全霊を込めて、良い演奏をするだけだ!!
 我々と佐渡氏との出合いは97年初頭、初対面時はお互い硬さもあったが、すぐに打ち解けた。とても気さくだが、音楽には一切妥協しない、いわゆるカリスマ指揮者だ。でも、ジャンルは何でもOK。目から鱗が落ちた。私事ながら自分の目指すコンセプトと非常に近く、その日既に大いなる手応えを感じていた。そして氏の人間的魅力、懐の深さ、大いなる包容力等に既に引きつけられていた。 
 記念すべき佐渡氏との第一回目の公演。97年の6月。フタを開けるまでは、どうなるか大変不安だったが、動員、内容共に大盛況であった。うれしくて朝まで飲み明かしたのを記憶している。今回、その時のバーンスタインの「シンフォニック・ダンス」をまだそんなに間隔も空いてないのにまた演奏する…。録音はともかく、前に行なわれる、各地での公演でも行なう。恐らくメンバー全員に、色々な想いが駆け巡っただろう
(またやるのか? 近すぎないか? いや、万全で望みたいからいいと思う。ファンはまた再演を望んでいるし、2年経ってどの位こなれたかという点も興味深い。こんなに反響を呼ぶなんて! 聴き逃したのが返す返すも残念!というファンの方の声声声…)
 結局、やるか!となった。
 実は、これが吹奏楽版での全曲レコーディングの世界初である。そのくらいバーンスタインの権利に関する問題は厳しいのである。某オケが密かに彼の作品を無許可で演奏し、何と罰金を1500万くらい取られたという過激なエピソードも聞いている。
 ちなみに今回のアレンジ、演奏とも非常に評判がよく、近日中に譜面も出版される予定と聞いている。それにしても、問合わせの多い事、多い事。本当に20世紀を代表する不朽の名作だなと、改めて大認識した。
 他の曲は?? 皆、それぞれ思い思いの曲を口走る。ふと、とあるデーターに目をやる。今また朝鮮民謡がリバイバルしている。佐渡氏も「良いな、それ!。やりたいわー。俺大好きやねん、朝鮮民謡!」 即決である。佐渡氏にも我々にも青春時代の思い出がたっぷり詰まった佳曲である。
 幕開けは? 散々もめたが、佐渡氏らしく、またシエナの十八番でもある「キャンディード」でびしっと切り込む事にした。兎にも角にも、このアルバムのコンセプトは、「誰が聴いてもうんと楽しめて…」「単なる音源としての作品なんか、全く意味が無い」「オーケストラ、吹奏楽、クラシック等のそんな狭い了見での壁なんか、ガツンと打ち破って!」
 そもそもフランスのクラシックの雄、エラートからリリースされる事自体、極めて異例だといえる。最初はワーナーからお話を頂いたが、佐渡氏はエラートとの専属契約がある。一瞬雲行きが怪しくなったが、ワーナーは日本でのエラートの窓口。また、がちがちのクラシックのレーベルが、吹奏楽を果たして出すか?との心配もしたが、いずれも全くの杞憂に終わった。
「<アルメニアンダンス>は絶対入れたいね。やっぱり全曲でしょう!」と最初は意気込んでいたが、結果的にはパート1のみに落ちついた。これからいくらでも全曲カップリングの機会はあるだろうし…。そう、あのリード氏が我々の公演を自ら聴きに来てくださり、「今夜のアルメニアンは最高だ! 私が今まで振ったり聴いたりした中で、完全にベスト1と言える出色の出来だった!」と絶賛して下さった。これがまた大変な勇気につながっていた。
 しかし、やはり「アルメニアン」は全曲で!という声がリリース後ばんばん聞かれるようになった。まあ、お待ちください。必ずやりますから!!
「ガイーヌ」はあえて林版を使い、アンコールにはもう完全に我々の定番として定着したバッハとスーザ。スーザといえば、我々の定期公演のアンコールには必ずスーザを入れているが、暗黙のお約束として、佐渡氏との初共演以来、聴衆の皆さんが演奏で参加される事を願っている。とはいっても、皆さんシャイで、しばらくは、「何人か吹いてたみたいよ!」「本当??」というような感じが続いたが、昨夏のすみだトリフォニーのオルガン前に特殊バンダ部隊がさっそうと現われ、高らかにフィナーレを飾ってからは一気に火がつき、昨冬のコンサートでは驚くほどの(バイオリンや指揮の人、某プロオケの首席奏者までいた)人数の方が参加してくれた(今では社会現象として、新聞で大きく取り上げられるほどになった)。

 ■「ブラスの祭典」は吹奏楽の魅力がすべて詰まった自信作
レコーディング風景-3
 こうしてお膳立ては全て整い、いよいよテープが回り出した。しかし、何といっても暑い盛りである。だが、空調の音が入るのでテイク中は冷房なしである! ほんまに暑い。ほとんどサウナ状態だ。こんな状況だと、やはりピッチには乱れが起きやすい。演奏もギンギンに熱いのでなおさらだ。デリケートなppのハーモニーがしっくりいかない。だが、納得いくまで容赦なくテイクは繰り返される。楽屋の涼しさとのギャップがまた、体調の不調を誘う。
 しかし、そんなものは大した事ではない!。段々とサウンドが寄り集まってくるのが解る。レコーディングは集中力、体力共極限状態まで追い込まれる。しかし、我々も今迄までの数多くの体験や佐渡氏と過ごしたここの所の充実しきった時間が本当に生きてるなと痛感した。やはり底力が格段に付いているのだ。しかも、このレコーディング・セッションを通して、それはさらに強化されたと思う。
「ウエストサイド」では、皆も疲労が極限状態…。Trpのハイノートの一撃がどうしてもしっくりいかない部分に遭遇した。こんな時、マエストロはさすがに数々の修羅場をくぐってきただけある。「よーし、飯にしよう!」そして、休憩後のワンテイクでその部分は物の見事に決まったのだった。
レコーディング風景-4
 このご時勢である。制作費も決して潤沢には使えない。しかも今回は社運をかけての大々プロモーションもすると言う。そんな中で本当に我々は頑張ったと、自負したい。
 客席には入れ替わり立ち代わり、この一大プロジェクトを心待ちにする、各方面の方々の見学が引きもきらない。いつもの聴衆から比べれば、ポツポツだが、皆の気合の入り様も半端じゃない、「さすがプロだナー」と妙な所で自分も感心した。
「キャンディード」の冒頭の炸裂する切れ味、「アルメニアン」の冒頭の宇宙に広がるような一大スペクタクル・サウンド、「朝鮮民謡」の主題における佐渡さんのこだわりの詰まりきった節回し、「レスギンカ」の大圧倒の怒涛のff、「星条旗」の悪乗りに近いエンディング、バッハの限りなく透明で純粋なpp、これは紛れもなくこのコンビの、そして吹奏楽の持つ全ての魅力が詰まりきった作品だと胸を張って言いたい。

 ■メンバーもビックリ! 発売1週間でなんと1万枚!!
 そして、いよいよ発売! とにかく凄い売れ行きだ!! 発売1週間で1万枚を軽々と越えた。実に様々な雑誌に記事や広告が掲載され、全国津々浦々の新聞にもにも「これでもか!」という程掲載された。そして有名CDショップのほとんどでクラシック部門初登場1位を記録、全ジャンル・トータルでもかなりの順位にノミネートされた。
 派手派手の真っ赤なジャケット! 否応にも目立つ! 現在2万1千枚を越えたところで、とにかく次は3万枚突破と意気込んでいる。そしてうれしいことに日本管打吹奏楽学会のアカデミー賞制作部門賞をいただく事ができた。もちろん、第2弾の話も出つつある。あとは全世界リリースもできないだろうか? 本当に売れると思うんだけどなあ。
 ともかく、10周年の今、ピカピカに輝いているシエナです。7月の定期は心境著しい、若手の雄、金 聖響氏と、私の従兄弟にあたる、T・スクエアの黄金時代の強力フロント、伊東たけし氏、そ・れ・に、この私の炸裂しきったおやじギャグ&このキャラどおりのアドリブ・ソロ、そしてプログラムもいつもながら熱く熱く、びしびしと盛り上げます。すでに地方公演では大盛り上がりしてきています。
 皆様、7月14日は<すみだトリフォニー>へ大集合してください! 待ってるよ! あっ、楽器をお忘れなく・・