by 富樫鉄火(音楽ライター)
ジョン・ウィリアムズと吹奏楽【後編】
実は、この後編では、吹奏楽版になったジョン・ウィリアムズ(JW)の曲について、いくつか解説する予定だったのだが、予定を変更して、5月23日 (火)のシエナWO第21回定期演奏会で演奏される曲の「ヴァージョン」について、大急ぎで述べることにする。 というのも、当初、チラシやHPで告知さ れていたのは、単なる曲目のみだったので、具体的に誰のどんな編曲譜が使用されるのか、まったく分らなかった。しかし、当日のプログラム解説を書かせてい ただくことになり、あらためてシエナ側に問い合わせてみたところ、これが驚くべき内容になっていたのである。 ひとことでいってしまえば、当日演奏される のは、そのほとんどが「新版」なのである。つまり、市販されている編曲譜ではなく、この日のためにオリジナル制作、あるいは独自構成された楽譜ばかりなの だ。まず、2つの大きな組曲。最初の『ハリー・ポッター』組曲だが、全5曲構成のうち、最初の4曲は、JWによるオリジナルスコアが使用されるのだという。 ということは、当日は吹奏楽編成ではなく、フルオーケストラ編成なのか? と早合点してはいけない。どれも、オリジナルが管楽器・鍵盤楽器の曲だったので ある。チェレスタで演奏される「Tヘドヴィクのテーマ」、木管アンサンブルで演奏される「Uニンバス2000」(しかも、この曲はサントラCD未収録らし い)。そして、ホルン四重奏の「Vホグワーツよ永遠に」、金管アンサンブルによる「Wクィディッチ・マッチ」。ラストの「Xハリーの不思議な世界」(これ のみ、オリジナルはフルオーケストラ曲)は、亀井光太郎による新編曲初演。要するに、チェレスタのソロから始まって、管楽器室内楽がつづき、次第に編成を 大きくしていき、最後はフルバンドで演奏されるわけだ。
もうひとつの組曲『スター・ウォーズ』組曲だが、おそらく多くの方々は、ハンスバーガー編曲版が演奏されると思っておられるだろう。プロ・バンドが取り 上げるとしたら、やはりこの版が、現在では最もハイレベルな内容だからだ。だが今回は、まったく新たな構成・新編曲で演奏される。 まず、「Tメインテー マ」は、真島俊夫によるフルヴァージョン新編曲が初演される。真島版『スター・ウォーズ』組曲は、すでにブレーンから楽譜も音源も発売されているが、あれ は、若干の圧縮カットがあったらしい。今回、シエナは、限りなくオリジナルに近い響きと内容で演奏しようと願ったようで、あらためて真島俊夫に、完全版編 曲を依頼したそうなのだ。 つづく「Uヨーダのテーマ」は、これは既刊のハンスバーガー版が使用される。そして、「Vフラッグ・パレード」と「W運命の闘 い」(ともに『エピソード1/ファントム・メナス』より)は、各々、小林健太郎と清水大輔による新編曲初演である。しかも「W運命の闘い」では、オリジナ ルどおり、合唱を加えて演奏される(晋友会合唱団)。
つまり、『ハリー・ポッター』も『スター・ウォーズ』も、市販の楽譜や組曲ではなく、この日にために制作された新編曲と新構成を組み合わせたオリジナル組 曲が演奏されるわけだ。しかも合唱付きで。 合唱が加わるのはこれだけではない。『プライベート・ライアン』〜「戦没者への賛歌」は、スパーク編曲版が使 用されるが、ここでも、オリジナルどおりに合唱が加わる。
そのほか、『JFK』〜プロローグも、真島俊夫による新編曲初演。『サモン・ザ・ヒーロー』は、ポール・ラヴェンダーによる既刊の編曲が使用されるが、 原調に移調しての演奏だという。 かように、まことに手間がかかった稀有なコンサートが開催されるわけで、筆者などはつい「予算は大丈夫なのか?」と、無 粋な心配をしてしまうのだが、実際は、こうせざるをえない事情もあったようだ。 というのも、JWの吹奏楽版楽譜は、実にたくさんの種類が発売されている ものの、その多くがアマチュア学生向きのレベルで、オリジナルの良さをそのまま生かした編曲は少ないようなのだ。JWの音楽は、実際に演奏してみると、耳 で聴くよりもずっとやっかいな作りになっているのである。だから、アマチュア向きの楽譜では、そういった部分を変更しなければならなかった。
例えば『スター・ウォーズ』でいえば、サントラをロンドン交響楽団が演奏しているのを見ても想像がつくであろう。原曲は、前奏部分に、トランペットやト ロンボーンがマルカートで32分音符を4つ続けて奏でる部分があって、これがあの独特で壮大な出だしに大いに貢献しているのだが、多くの吹奏楽譜では、こ れがカットされたり、三連符に書き換えられたりしているものが多い。あるいは、オリジナルのままの尺だと長すぎるので、圧縮カットが加えられる。もちろん アマチュア向けに編曲されているのだから、それはそれでいいのだろうが、今回のシエナのように、ひたすらオリジナルの響きを追求するには、やはりカットは したくないであろう。
このような姿勢で楽譜を探して選んでいった結果が、今回のような、通常の吹奏楽コンサートの枠ではとらえきれない、あまりに独自の内容になったようなの である。こんな機会は、なかなか出会えるものではない。当日をワクワクしながら待っているのは、筆者だけではないはずだ。

