第4回 ウィテカーの「オクトーバー」

by 富樫鉄火(音楽ライター)

 10月に開催されるコンサートで、《オクトーバー》なるタイトルの曲が演奏される・・・
 なんとも、イキな選曲でもあり、うまくできすぎのようでもあり・・・。

 10月14日(金)、神奈川・横浜「みなとみらいホール」、シエナ・ウィンド・オーケストラ特別演奏会の曲目の中に、エリック・ウィテカー作曲《オクトーバー》なる曲がある。

 ウィテカーといえば、《ゴーストトレイン》(95年)、《ラスベガスを食い尽くすゴジラ》(96年)、《エクウス》(00年)などで人気作曲家になった若手である。なかなかのイケメンで(マジ、モデルや俳優もやれそうな感じ! ベッカム系かな)、追っかけに近いファンもいるらしい。

 日本語表記だと「ウィテカー」もしくは「ウィッテカー」が多いが、スペルが「Whitecre」なので、海外では「ホワィトゥクェー」と聴こえるような感じで発音する人もいる。

 1970年生まれなので、まだ35歳の若さだ。特に吹奏楽専門の作曲家ではない。純クラシック系、合唱曲、商業音楽など、何でもこなしている。

 吹奏楽曲としての第一弾が、上記「ゴーストトレイン」で、これで瞬時にして、世界的な吹奏楽作曲家として認知された。この曲、タイトルを直訳すれば「幽霊列車」だが、オカルト的な要素よりは、「いまはなき、昔の幻影を追う」ようなムードが強い。往年の機関車の旅を、ジャズの要素を取り入れて、全体的に、たいへんユニークな音楽であった。

 つづく《ラスベガスを食い尽くすゴジラ》は、文字通り、ゴジラがアメリカに上陸し、コンサート会場を急襲、さらにラスベガスを襲う模様を音で描写したスペクタクル・パノラマ・シンフォニーだった。

 それら先行作のどれもが、それなりの技巧を要求される曲なので、ウィテカー=難曲をつくる人・・・とのイメージが先行しているかもしれない。

 だが、今回の《オクトーバー》は違う。譜面だけ見たら、中学生の初心者でも演奏できそうな気さえする(16分音符が出てくるのは1小節のみ)。

 しかし、この曲をきれいに演奏するには、かなりの力量が必要だ。

 いったい、なぜ、ウィテカーは、このような「やさしい」吹奏楽曲を書いたのだろうか?

 ウィテカーが自身のウェブサイトで紹介しているところによれば、ある時、高校のバンドディレクター氏と知り合い、ネブラスカ州の各高校から30バンドが集まるイベントがあるので、そこで演奏できる曲を委嘱されたらしい。さすがに、高校30バンドもの合同演奏ともなると、適度なグレードにしなければならないと考え、2000年に、この《オクトーバー》が生まれたらしいのだ。

 題材に「10月」を選んだのは、作曲者がいちばんお気に入りの季節だったからのようだ。

 曲全体は、たいへんゆったりと、田園風景を描写するかのようなムードで流れる。近年、シエナが演奏した曲で言えば、ルディンの《詩のない歌》もそうだったが、オタマジャクシが簡単な分、かなりの息の長さとピッチ合わせを求められる曲といっていいだろう。

 オーボエを中心に、せつなげな、物憂いメロディが流れる。前奏部分を経て、最初のトゥッティに流れ込む部分のうまさは、何ともいえない。背筋を何かが走る。

 実は、ウィテカー自身「(テクニック的に)優しい曲を書くことは楽ではなかった」と告白している。なるほど、ハイ・テクニックな曲を書きまくるウィテカーならではの、これは「演奏心のハイ・テクニック」を要求される曲なのだ。

 こういう曲で、シエナがどんな響きを生み出してくれるのか、今から楽しみである。


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