第3回 エリック宮城の魅力
いまの若い方々は、メイナード・ファーガソンというトランペット奏者をご存知だろうか。
おそらく現在30歳代以降で、昔、吹奏楽部でトランペットを吹いていた方の中には、「ファーガソンに憧れて始めた」という人も多いのではなかろうか。
メイナード・ファーガソン(以下MF)は、1928年、カナダの生れ。のちにアメリカに移住して一時代を画した、超絶技巧ハイノート・トランペッターである。
特に、1950年代初頭、スタン・ケントン楽団に所属し、この頃からハイノート・トランペッターとして一挙に名を馳せた。独立してからは、自らの楽団やセクステットを率いて、ジャズを中心にフュージョンやポップスなど、様々なジャンルの音楽を演奏している。
彼の魅力は、何といっても、その、人間ワザとは思えない、超ハイノートにある。おそらく、瞬間的に出す音程は、五線譜のはるかず〜っと上の方、ほとんどヴァイオリンやピッコロでなければ出せないような音域にまで広がっているはずだ。そして、分りやすくて、手に汗握るアレンジと演奏。
MFの名がジャズファン以外にも広がったのは、誰でも知っている名曲を、MF流にアレンジして演奏するようになってからだろう。例えば、ウェザーリポートの『バードランド』、映画『ロッキー』のテーマ、TV版『スタートレック』のテーマ・・・等々。これらを、MFは、目も眩むような素晴らしいアレンジとハイノートで演奏し、我々を圧倒した。もしかしたら、これらの演奏を聴いて、「え? これって、MFのオリジナル曲じゃなかったの?」と驚く若い方もいるのではないか。NTV系列の人気番組だった「アメリカ横断ウルトラクイズ」のテーマ曲に流れていたのも、このMFの『スタートレック』であった。
私も、若い頃に、何度か、MFの来日公演に行った。観客層は、通常のジャズやポップス・コンサートとは違っていて、明らかに吹奏楽部員と思われる若者が山ほど来ていた(手にトランペット・ケースを持っているから、すぐに分る)。吹く楽器も、トランペットだけではなく、フリューゲルホーンや、自らが開発・制作した「MFホーン」(トランペットとフリューゲルホーンの中間みたいな感じの楽器)など様々で、お得意のハイノートから、甘いバラード風の曲まで、実にバラエティに富んでいたものだ。
・・・ところで、いったい、なぜ、ここでMFの話などが出てくるのか?
実は、6月18日(金)に、横浜みなとみらいホールで開催される、シエナ・ウインド・オーケストラの第17回定期演奏会に、このMFがゲスト出演する・・・というのは真っ赤なウソだが、当たらずとも遠からずといった、夢の共演が実現するのである。
★若くしてMFと共演!
その名は「エリック宮城(ミヤシロ)」。まさに、MFの系譜を、最も色濃く継ぐ、世界的ハイノート・トランペッターが、当日の第2部で、シエナと共演を果たすのである。
エリックは、1963年、ハワイ生れの日系三世。幼少よりトランペットを吹き、高校生の時には全米オールスターに選出され、何と、カーネギー・ホールで、かのMFと共演しているのだ。つまり、日本流に言えば、彼は、MFのお弟子さんのような存在なのである。
ちなみに、私は金管楽器奏法に関しては不案内なのだが、確かMFは、ヨガにおける呼吸法を習得し、それをトランペット奏法にも生かしていたはずだ。そして、エリックも、彼の著書『エリック・ミヤシロのBrassテクニック・ガイド』(杉原書店刊)の中で、ヨガ呼吸法を説明している。
その後もエリックは、MFはもちろん、バディ・リッチ、ウディ・ハーマンといった楽団でリード・トランペッターをつとめた。ジャズ・ファンならば、これらの名前を聞くだけで、ピンとくるだろう。どれも、パワフルで、エキサイティング、吹奏楽ファンが最も好むであろう、ビッグバンドの王道を歩んできたのだ。
もちろん、ソロとして、あるいは、スタジオ・ミュージシャンとしての仕事も多い。メル・ルイス、レイ・チャールズ、スティーヴィー・ワンダーといったビッグ・アーティストとも共演した。
★パワフルなのに、甘くて優しい音色
そんなエリックが、1989年に日本に活動の拠点を移した際は、かなりの衝撃が音楽界に走ったようだ。
音楽プロデューサーの平岩嘉信氏は、エリックのアルバム『Kick Up』のライナーノーツに、こう書いている・・・「(エリックの)来日は、日本のスタジオ・シーン全体を揺るがしました。高らかに鳴るハイノート、そして数々のバンドで磨かれてきたそのセンスと技術によって彼はたちまちスタジオ界での『First Call Player』になっていったのでした」・・・と。
私も、何度か、エリックの音をナマで聴いている。その音色は、単なるパワフルなハイノートではない。どんなに強い音を出しても、どこかに優しさや甘美な香りがあり、実に心地いいのだ。それは、まさに師匠筋ともいえる、MFの味そのものだった。
以前、かの大阪府立淀川工業高校吹奏楽部がエリックと共演した際、指揮・司会の丸谷明夫先生が、最後に、「いやいや、エリックはいつまで吹いていても平気でしょうが、我々がこれ以上、ついて行けませんので、この辺で・・・」と、苦笑しながら頭を下げていたのを思い出す。
日常活動の中心がスタジオ・ミュージシャンのようで、それらの合間を縫ってソロ活動やジャズ・バンド演奏をこなしている。また、アマチュア吹奏楽との共演も、積極的にこなしている。だが、プロのウィンド・バンドとの共演は、そう頻繁にあるものではない。
だから、今回のシエナ定演への出演は、まさに「夢の共演」といえる。
師匠MFが、その年齢のせいもあって、そろそろ活動を絞ってきている昨今、エリックの役割は大きい。
シエナとの共演が、どんな結果を生むか、いまからワクワクせざるを得ない。

