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コラム第4回「佐渡&シエナとバーンスタイン」
文:本田悠人(音楽ライター)

現在、シエナ・ウインド・オーケストラ(以下、SWO)は同団の首席指揮者、佐渡裕とともにコンサートツアーを行っている。プログラムのメインはレナード・バーンスタイン(1918-1990)の《ウエスト・サイド・ストーリー》より"シンフォニック・ダンス"。
そして、通常であればポップスなど「当日のお楽しみ」とされる佐渡&シエナの名物『音楽のおもちゃ箱』にもバーンスタイン生誕90周年記念と銘打たれ、 《キャンディード》序曲、《オン・ザ・タウン》より"3つのダンス・エピソード"、そして《プレリュード、フーガ&リフス》の3曲が組まれている。
公演のチラシには大きくバーンスタイン祝・生誕90周年の文字が躍るが、もう一つ見逃せないキャッチコピーがある。
『ついに10年!』と。

1997年6月23日、東京芸術劇場。
マエストロ本人の談によれば「一回だけ」の共演のはずであった、SWOの第3回定期演奏会。(※バンドジャーナル1997年7月号掲載の広告にも「最初で最後の共演か!!」と打たれている)
ところが当日は満員の聴衆。そして、故・アルフレッド・リード氏をして「今まで私が聴き、または指揮してきた中で最高の演奏」と言わしめた彼の作《アルメニアン・ダンス》の熱演など、強烈な衝撃が再共演を呼び寄せたのは自然なことであろう。

その後も公演を重ねるごとに人気が高まり、そしてアンコールでの《星条旗よ永遠なれ》(スーザ)には今やステージを埋め尽くさんばかりのお客さんが楽器を 持って集合し、逆にメンバーが通路にあふれ演奏する、なんていう光景すらも見られる。ステージも客席もみな笑顔で、音楽の楽しさ、吹奏楽の楽しさを満喫し ているのではないだろうか。
そうして関係を築きあげてきた佐渡裕とSWO。

このコンビで10周年を迎えた昨年秋、SWO第24回定期演奏会は『バーンスタイン・ガラ』と題され、すべての曲目がバーンスタインの作品であった。
これまでにもSWOでは先に登場したアルフレッド・リードや、ジョン・ウィリアムズと言った作曲家の曲目で定期演奏会を開催しているが、佐渡裕指揮の定期公演で単一の作曲家の作品のみを取り上げ、『音楽のおもちゃ箱』の形式を取らなかったのはこの回が初めてのはずである。
10周年の節目の年に、あえて前例を破り取り組んだオール・バーンスタイン・プログラム。そこには「佐渡&シエナ」の特別な想いが感じられてならない。

前述の第3回定期から遡ること10年、アメリカでの運命的な出会いがあった。
1987年のタングルウッド音楽祭に参加した佐渡裕が、バーンスタインのレッスンを受けられることになったのだ。その初めてのレッスンで、佐渡裕の中に光 るものを見出したバーンスタインは、1990年に亡くなるまで愛弟子としてヨーロッパ各地、そして札幌へと同行させたのである。数字にすると短い期間では あるが、しかし佐渡裕が師から得たものの大きさは計り知れない。

そして、1997年。SWOとの初共演のメイン曲に選んだのが"シンフォニック・ダンス"なのである。さらには1999年、佐渡とSWOの最初の録音である『ブラスの祭典』にもこの作品が収められた。もちろん、元々吹奏楽での演奏機会が多い《キャンディード》序曲も。
このCDによってSWOを知ったという人も少なくないのではないだろうか。
その後2001年に録音されたCD『ブラスの祭典2』にもバーンスタインの隠れた名曲《プレリュード、フーガ&リフス》が収められた。
佐渡裕が大切にしているバーンスタインの作品は、こうしてSWOのメンバーにとっても忘れられない、大事なレパートリーとなっていったのである。

・・・やっと2007年に帰ってきた。
これらバーンスタインの名曲の数々をズラリと並べての『バーンスタイン・ガラ』、ファンにとっても待望のコンサートはチケット即日完売、さらにはDVDとCDの収録も行われることとなった。
筆者はDVDにも収録された、東京での定期演奏会を楽しませてもらった。
気合十分、入魂の演奏。DVDのタイトルにもある通り、まさに「熱狂ライヴ!」であった。

この10年、メンバーそしてマエストロが年齢を重ねたということももちろん事実だが、それ以上に指揮者とオーケストラの信頼関係を感じさせる演奏、とりわけヴォーカルを迎えての"サムウェア"は感動的であった。
また、筆者はそのツアーの終盤に行われた松本での公演を、このたび発売されるCDで拝聴した。
ライヴでの体感とCDの録音を単純に比較することは難しいが、それでも分かることはツアーの初日にあったある種の緊張感がほぐれ、その代わりに別の意味でのテンションと、ドライヴ感が高まっているということである。
セッション・レコーディングであった過去のCDに対し、今回のCDはライヴ・レコーディング。それゆえさすがに全くの無傷ということはないのだが、だがしかしこの興奮はライヴ盤でしか味わえないものだろう。
と同時に、やはり実演を全身で受け止めることが、何よりも最上の興奮をもたらしてくれるのであると感じるのである。

そうして現在、再び「バーンスタイン特別プログラム」としてコンサートツアーが行われている。
このツアーに先だって、SWOからマエストロに「寄せ書き」が送られた。1月26日の第25回定期演奏会、ミューザ川崎シンフォニーホールのロビーに飾ら れたその寄せ書きにはSWOのメンバーからの感謝と愛情の言葉が溢れていた。世の中にオーケストラは星の数ほどあるが、これほどまでに指揮者との信頼関係 を築いている団体がどれだけあろうか。

今回のコラムは随分とSWOびいきな感じになってしまったが、今の「佐渡&シエナ」にはそれをさせるだけの魅力を持っているのである。
大阪、明石での公演も大盛況だったようで、残る九州、名古屋、宮城での公演もきっと素晴しいものになることだろう。
そしてまた東京に帰ってきての特別演奏会(2月4日、すみだトリフォニーホール)が予定されている。
10年間の集大成、そして生誕90年のバーンスタインプログラム。果たしてどんなステージになるのか。
ひとりでも多くの人と体験を共有できたらと願ってやまない。

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