ジョン・ウィリアムズと吹奏楽【前編】
文:富樫鉄火(音楽ライター)
ジョン・ウィリアムズといえば、スティーヴン・スピルバーグ作品がすぐに浮かぶ。
この2人が"出会った"きっかけの作品が、1972年公開の映画『11人のカウボーイ』(マーク・ライデル監督)だった。
この音楽は、吹奏楽版でもおなじみであろう。全日本吹奏楽コンクール全国大会に最初に登場したのは、1987年。
福岡工業大学附属高校が演奏した≪カウボーイ序曲≫。指揮は、いまでは「タッド鈴木」の名でアメリカで活躍する、鈴木孝佳先生(結果は、惜しくも銀賞だった)。
この曲は、日本の吹奏楽界では≪カウボーイ序曲≫なる邦題で流布しているので、ちょっと分りにくいのだが、映画『11人のカウボーイ』のサントラをコンサート用序曲にまとめた管弦楽曲があり、それを、ジム・カーナウが吹奏楽版に編曲したものだ。だから、≪11人のカウボーイ序曲≫などと表記される方が正確であろう。
原題は『The Cowboys』。直訳すれば「カウボーイ(牧童)たち」。
この映画は、アメリカの国民俳優、ジョン・ウェインが、物語の後半であっさり殺されてしまう設定がたいへんな話題になった。物語は... 老牧場主ウィル(ジョン・ウェイン)が、650キロ先の町まで、1500頭もの牛を運ぶことになった。しかし、折悪しく世はゴールドラッシュ全盛期で、町には、まともな大人の男は1人もいない。仕方なくウィルは、11人の少年を牧童として雇い入れ、旅に出る。
途中、様々なトラブルに出会いながらも、少年たちが次第に一人前のカウボーイ、いや、「男」として成長して行く過程が細やかに描かれる。特に、昔気質の老人ウィルと少年たちのぶつかり合いは、いつの世にもある世代間対立を思わせ、おおいに見応えのある映画になっている。
先述のように"敵の銃弾に倒れたことのないヒーロー"ジョン・ウェインが、クズのようなチンピラにあっけなく殺されてしまい、以後、少年たちだけで牛を届けることになる設定が、なかなか泣かせる。
ちなみに、この「チンピラ」を演じたブルース・ダーンは、"ジョン・ウェインを殺した男"として、一躍有名になり、以後、独特な性格俳優路線で成功するのであった。
この音楽を書いたのがジョン・ウィリアムズ。この頃は、まだ、『ジョーズ』(75)も、『未知との遭遇』(77)も、『スター・ウォーズ』シリーズ(77?)も、「インディ・ジョーンズ」シリーズ(81?)も、『E.T.』(82)も、書いていない。しかし、これら後年の
傑作音楽の要素が、すでに、すべて盛り込まれているのに驚く。コープランドを思わせるアメリカン・テイストと、シンフォニックな要素がうまく一体化しているのだ。
この作品を観て、その音楽に惚れこんだ若き映画監督がいた。それが、スティーブン・スピルバーグである。もともと彼は、映画マニアは当然として、大のサントラ・マニアでもあった。そして、この『11人のカウボーイ』の音楽に感動して『続・激突!/カージャック』(73)にウィリアムズを起用し、続いてあの『ジョーズ』で大ブレイク。以後、この2人は名コンビとなって、名作を放ちつづけるのである。
カーナウ編曲による吹奏楽版(Alfred Publishing版)は、日本のグレードでいうと、ほぼ「4」くらいの難易度であろう。
ところが、冒頭、Trp1(2声div.)と、Hrn1?4が、むきだしで16分音符の細かいパッセージを、ユニゾンでファンファーレ風に奏でる(実際には、8分と16分の組み合わせで、16分が連続して聴こえるように書かれている)。最初の一瞬でバンドの実力が分ってしまう、ちょっとコワイ曲だ。以後も、譜面ヅラは、それほど複雑ではないのだが、リズム感や全体の音量バランスなどの組み立てが、少々やっかいだ。それゆえ、コンクール全国大会の自由曲としても、十分通用したのであろう。
余談だが、人数や実力の点で、このカーナウ版をやっかいに感じるバンドには、ジェイ・ボクック編曲による、小?中編成版もある(同じAlfred Publishing版)。こちらはグレード「3」といったところか。Hrnは1声編成で、冒頭のファンファーレは、Cl1?3、A.Sax(1声)、 Trp1?3がヘルプに入る編曲なので、かなり安心して演奏できるはずだ。カーナウ版で頻繁に登場する変拍子も、適度に書き直されている(例えば、冒頭はカーナウ版が3拍子。それに対してボクック版は4拍子)。初心者が多い中学校バンドでも取り組めるであろう(今度、シエナが演奏するのは、もちろん、カーナウ版である)。
かくして、スピルバーグと名コンビを組むジョン・ウィリアムズだが、すぐに、吹奏楽界をノックアウトするような曲を引っ提げてくるのであった。





