コラム第5回「ニューマン・ファミリーの話」
文:富樫鉄火(音楽ライター)
1970年代に入って、ハリウッドは、いっせいに「パニック映画」なるジャンルに突入し、どれも、大ヒットを飛ばすようになった。
豪華客船が嵐で引っくり返る『ポセイドン・アドベンチャー』(72)。
超高層ビルで大火災が発生する『タワーリング・インフェノ』(74)。
ロサンゼルス一帯を巨大地震が襲う『大地震』(74)。
NYの地下鉄が乗っ取られる『サブウェイ・パニック』(74)。
平和な海水浴場を人食いサメが襲う『ジョーズ』(75)。
イタリア映画界も、ハリウッドに負けてはいなかった。細菌を浴びたテロリストを乗せて列車が突っ走る『カサンドラ・クロス』(76)を出し、大ヒットする。
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この影響は、すぐさま日本映画界にもおよんだ。
日本列島が地震と共に海に沈む『日本沈没』(73)、速度を落とすと自然爆発する爆弾を積んで東海道新幹線が止まれなくなる『新幹線大爆破』(75)など、「和製パニック映画」が、続々と製作された(余談だが、この『新幹線大爆破』のアイディアが、のちに、ハリウッド映画『スピード』の原案になったことは、言うまでもない)。
これら、世界的現象ともなった「パニック映画」の元祖が、1970年のアメリカ映画『大空港』(ジョージ・シートン監督)である。
ローマ行きのジャンボ機に、自殺して保険金を得ようとする男が、爆弾を持って乗り込む。クルーたちは、なんとか阻止しようとするが、男は、機内のトイレで自爆。機体は大きく損傷し、飛行不能に・・・。すぐさまケネディ空港へ引き返すが、運悪く、空港は、未曾有の豪雪で閉鎖中・・・。
機内のみならず、巨大空港で働く人たちの様子がきめ細かに描かれ、単なる「パニック映画」の枠を超えた傑作として、いまに名を残す名画である。
さて、この映画は、「パニック映画」ブームの開幕を告げたと同時に、ある時代の終焉をも告げていた。
『大空港』は、ハリウッド映画音楽界の巨匠、作曲家アルフレッド・ニューマンの遺作だったのである。
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アルフレッド・ニューマン(1900?1970)は、長年、20世紀フォックス社の音楽部長として君臨した、ハリウッド映画音楽界のボスだ。
恐らく、彼の音楽は知らなくても、『スター・ウォーズ』を始めとする20世紀フォックス社の映画の冒頭で、派手に流れる《20世紀フォックス・ファンファーレ》を知らない人はいないだろう。あれを作曲した人である。
もともと、8歳でベートーヴェンのピアノソナタを弾くほどの神童だったが、家が貧しかったため、ブロードウェイの劇場でピアノを弾いて生計を支えた。正式な音楽教育は、ほとんど受けていない。生粋の叩き上げなのだ。すでに、17歳で、ブロードウェイで、ミュージカル指揮者としてデビューしていたという。
以後、徐々に映画界に入り込み、一時はシェーンベルクの指導も受ける。生涯で携わった映画は250本以上、アカデミー賞は9回も受賞している。代表作には、『イヴの総て』(50)、『聖衣』(53)、『アンネの日記』(58)、『西部開拓史』(62)・・・と、きりがない。
また、彼が音楽監督をつとめたミュージカル映画も、枚挙に暇がない。『ショウほど素敵な商売はない』(54)、『回転木馬』(56)、『王様と私』(56)・・・。
そして、特に、生涯最後の作品となった先述の『大空港』の音楽は、彼がすべての技術と才能を注ぎ込んで生み出した超傑作である。緊迫感と品のよさが見事に合致し、おそらく、一級のオーケストラ作品としても通用するのではないだろうか。
彼の死で、スケール豊かなハリウッド映画音楽の時代は終わった・・・かと思えた。
しかし、その7年後、20世紀フォックス社は、ニューマンの《20世紀フォックス・ファンファーレ》を冠した、ある超大作映画で、見事にニューマン当時の雄大で華やかな映画音楽を甦らせた。それが、ジョン・ウィリアムズの『スター・ウォーズ』(77)である。
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ちなみに、彼は、血族のほとんどが、映画音楽家だ。
2人の弟・・・『ドリトル先生不思議な旅』のライオネル・ニューマンと、『ヒット・パレード』のエミール・ニューマン。 2人の息子・・・『スクービー・ドゥー2』のデビッド・ニューマンと、『ファインディング・ニモ』のトーマス・ニューマン。 甥・・・『トイ・ストーリー1、2』『バグズライフ』のランディ・ニューマン。
まさに、バッハ家もヨハン・シュトラウス家も仰天の家系である。何だか、無一文から這い上がり、まともな音楽教育も受けていないのに、世界中の映画ファンを音楽の面から楽しませ、支えた、元祖アルフレッドの「根性」を、血脈一同で受け継いでいるかのようだ。
そして、このニューマン・ファミリーの原点こそが、1935年に作曲された《20世紀フォックス・ファンファーレ》なのだ。この派手でカッコイイ曲があったからこそ、あの《スター・ウォーズ》のテーマが生まれたような気さえする。
12月20日のシエナ・ウインドオーケストラの定演では、冒頭、このファンファーレが演奏されるはずだ。たった20秒ほどの小曲ではあるが、その陰に、ハリウッド映画音楽界を長年にわたって支えつづけているニューマン家のことを、ほんの少し、思い出していただきたい。
おそらく、極めて濃密な20秒間になるはずだ。
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